読書生活:「流転の海/宮本 輝」全9巻を読了

  • 2019.05.04 Saturday
  • 06:46

今月読んだ本
◎野の春 流転の海 第9部/宮本 輝
◎すべての道は役者に通ず/春日太一 
○壊されつつあるこの国の未来/辛坊治郎
○いのちの姿/宮本 輝 
○コンビニオーナーになってはいけない/コンビニ加盟店ユニオン

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◆「野の春 流転の海 第9部/宮本 輝」
1982年から連載を開始し、昨年の10月に完結した著者自身の父をモデルとした主人公・松坂熊吾の半生を描いた内容です。

完結を知り、昨年の12月に読み始め、4ヶ月弱で読み終えました。
どう表現したらいいのか、圧倒的な筆力で、ワタシの薄味の現実世界よりも小説世界のほうがリアルに感じられるような強烈な読書体験でした。
ワタシは流転の海に漂う舟といった感じの4ヶ月でした。

主人公松坂熊吾のキャラクターがなんとも魅力的です。
事業家タイプで次々と新しい事業に乗り出しますが、そのたびに人に騙されるお人好しで、利他の精神に富み、自分は貧乏していても、他の人が困っていて、事業のアイデアがあると平気で金を出します。相談ごとにも親身に応じて、多くの人生を救います。

しかし、一方で、やくざが恐れるほど凶暴で、暴力を繰り返します。嫉妬深く、学歴コンプレックスを持ち、家庭を愛してますが、家庭内暴力を何度も繰り返し、好色で次々と愛人を作っていきます。

こんな矛盾したものが共存するのが人間というものなんだと思います。今でもときどき、松坂熊吾のことを考えてしまいます。それと彼が生きた昭和の時代のことですね。

たぶんワタシの心の中に実在する人物のように生き続けることだろうと思います。

出てくる仕事は、中古車販売が中心ですが、駐車場管理、板金塗装、ダンスフロア、プロバン業、中華料理屋、雀荘、消防のホースの修繕、ゴルフ場、きんつば作り、チョコレートづくり、蕎麦屋、ホテルのまかない、ストリップ小屋等と多様です。

引用を少し
『賢いやつしか怒っちゃあいけんのお。馬鹿を怒ると、卑屈になりよって、逆恨みされる。』

『いなかというところは、保守性とか閉鎖性などという言葉でひとくくりにしてしまえない底意地の悪さがうごめいている。思いも寄らぬ陰湿な噂話はたちまちひろまるが、耳に痛い真実は頑固に拒否し、つねに数の多いほうに味方し、体制におもねり、権威に平伏し、人々の顔と腹はいつも異なる。熊吾は、四国の辺鄙な地にある己の郷里を決して愛していなかった。それどころか、ほとんど憎悪していたと言ってもよかった。』

『大きい小さいが男の値打ちなあらへんで。大きい男っちゅうのは、気味悪いくらい小さいものを持ってるんや。』

『熊吾は日本人でありながら、日本人が嫌いだった。不思議な民族のような気がするのであった。姑息で貧弱で残虐だ。そして思想というものを持っていない。武士道だとか軍国主義などは思想ではない。哲学でもない。』

『人は、一瞬一瞬に、ちょっとした行ないや言葉によって、己の過去と今とを露呈する。』

『顔の広い河内なら二三日のうちに俺が求めている人間を紹介してくれたであろう。それが次の災いのなりかねないのだ。俺はもう他人に疲れた。熊吾は心底そう思った。』

『奥さんのご亭主は不思議な人や。火と水とをいつのまにか交じらわせてしまいよる。松坂熊吾さんがあいだに入ると、火と水とが交わるんや。』

そして、この大河小説を一つの言葉にまとめると
『なにがどうなろうと、たいしたことはありゃあせん。』
になります。これは、実際にお父さんが言っていた言葉なんだそうです。

◆「すべての道は役者に通ず/春日太一」 
ベテラン俳優インタビュー集、第2弾。「週刊ポスト」に連載されていますが、かなりカットされています。
スターにはスポットライトがあたりますが、こうした名バイプレーヤーのインタビューは少なく、面白く読みました。含蓄ある言葉のなんと多いことか。

今回は、織本順吉、加藤武、宝田明、山本學、左とん平、中村嘉葎雄、上條恒彦、山本圭、石坂浩二、藤竜也、橋爪功、寺田農、江守徹、西郷輝彦、武田鉄矢、火野正平、勝野洋、滝田栄、中村雅俊、笑福亭鶴瓶、松平健、佐藤浩市、中井貴一が登場。
亡くなっている人もいる。織本順吉さんは先日亡くなり、貴重なインタビューになったのではないかと思います。

少し引用。
『最近になって思うのは、呼吸の合間に言う言葉がセリフなんだということです。ですから、想いを託してセリフを言う時は、その前に息を吸い込むようにしています。息を吐く時は、極端に言うと『てめえ、この野郎』と喧嘩をする芝居ですね。』−織本順吉

『ことの破るるは得意の日にあり』『私の家に雨戸があるんたけど、閉める時、慣れた感じで雑に閉めようとすると指にトゲが刺さってしまうことがある。だからあまり得意がっちゃダメよ』−沢村貞子by中村嘉葎雄

『「このようにやりたい」があまりあると、それに束縛されてしまう。束縛されると、いい芝居はできませんから。そんなのは作らないで、自分のその時の感覚で「こうだ」っていうのを出した方がいいと思います。』−上條恒彦

◆「コンビニオーナーになってはいけない/コンビニ加盟店ユニオン」
コンビニ収益の本部と店の配分は、利益を分け合うのではなく、売上全体からまず本部が一定の率で引いてしまい、残りを店の経費と収入とするところがキモですね。

仕入れさえ増やしてもらえば本部としては増収となるので、廃棄商品からも本部を利益を得ることができます。それで、欠品のないようにと言いながら、廃棄を出すような仕組みにしています。食品ロスが問題なご時世だというのに。

また、万引きされても、本部としては売上になるので、店員が万引した人を怒っていても、「お客さんをあまりいじめないように」と本部は注意するそうです。本部にとってはいいお客なんですね。

シフトが組めなくなるので、子どもはつくらないようにと言われたとか、キリンは2時間しか寝ないでいいそうで、ナナコのキリンのマークはその意味があるのではとか、災害で避難命令が出てもオーナーは最後に避難しなくてはならない決まりで、東北の震災でたくさんのオーナーが亡くなったそうです。

読書生活:「下町ロケットゴースト/池井戸潤」

  • 2019.04.20 Saturday
  • 14:34

3月に読んだ本です。

◎長流の畔(ほとり)流転の海 第8部/宮本輝
◎下町ロケットゴースト/池井戸潤

・本格ミステリ・ベスト10 2019/探偵小説研究会 
・このマンガがすごい! 2019/『このマンガがすごい!』編集部

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◆3月に読んだ本は少な目。
以前は、空き時間ができたときに、本を読むべきか、映画を見るべきかよく迷ってました。
それで、本を1冊読んだら、映画を2本見ると決めました。

ただ、これだと本は上下二段組の大作からやたらと活字が大きいのに薄いエッセイまで幅があってパランスがうまくとれません。

「読書メーター」というサイトで、読んだページ数が合計されているのを見て、これがいいと思い、「読んだ本のページ数の合計」と「見た映画の上映時間の合計」を比較して少ない方を摂取するという方法にかえました。

そんな読み方のルールを決めてる人っていらっしゃいますか?

ところがこれも欠点があって長いものを読もうとするとページ数がドンと増えてしまいます。
「流転の海」なんて9部作、3700ページあって、映画を約30本見るまで他の本は読めなくなってしまいました。

そんなことから3月は映画は17本で、本は2冊となりました。その「流転の海」も8部まで来て、最終巻を残すところまできました。

◆池井戸潤の「下町ロケット」シリーズは、
「下町ロケット」
「下町ロケット ガウディ計画」
「下町ロケット ゴースト」
「下町ロケット ヤタガラス」
と4冊が出ています。

「下町ロケット ゴースト」は2018年7月に、その次の「下町ロケット ヤタガラス」は2018年9月と相次いで出版されました。
池井戸潤ファンとしては2冊連続出版はコーフンの出来事でした。その時図書館に予約したのですが、読んだのが今頃になりました。

池井戸潤の本のほとんどは半沢直樹の二倍返しに見られるように、徹底した勧善懲悪です。
他の人の作品だと安っぽく感じる設定ですが、池井戸潤の作品だと引き込まれてしまう。何なのでしょう。

キャラクターづくりがそれなりにリアルなのと、これはどう見ても対応できないだろうという窮地を逆転していくアイデアがよくできてるからですかね。

◆「本格ミステリ・ベスト10 2019/探偵小説研究会」はタイトルどおりベストテンがメインですが、似鳥鶏さんと白井智之さんのインタビューやマニアックな「我が猜舒Ν疔楹淵潺好謄蝓廚覆匹隆覯茲盂擇靴ぁ

ベストテンはどれも面白そうで読みたくなりますが、「流転の海」3700ページが立ちふさがり手が出ないうちに3月が終わってしまいました。

読書生活2月

  • 2019.03.09 Saturday
  • 07:06

○先月読んだ本
・満月の道 流転の海 第7部/宮本輝★★★★☆
・カササギ殺人事件上/アンソニー・ホロヴィッツ★★★★
・カササギ殺人事件下/アンソニー・ホロヴィッツ★★★★
・うつ病九段/先崎 学★★★★
・ひとり小鍋/福森 道歩
・NHKガッテン!コレステロール本当の健康新常識<食べてちゃっかり改善>最新対策ワザ/NHK科学・環境番組部編

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◆「カササギ殺人事件上・下/アンソニー・ホロヴィッツ」は、「ミステリが読みたい! 2019年版」1位、「文春2018 ミステリベスト」1位、「このミス2018年」1位、「本格ミステリ2018」1位、と4冠を果たした作品。

ミステリ作家は意表をつく設定をあれこれ考える。
「探偵が実は犯人」あたりはそう驚かないが、「記述者(つまり私)が犯人」となるとびっくりする。自分の殺害シーンは描写しないので、読んでいる小説自体が正しく事件を伝えていないことになる。小説の枠を超えてしまってるとも言える。

さらには「読者が犯人」、「作者が犯人」というものまである。中には「作者は被害者で、犯人で、探偵」という作品もあった。奇抜すぎて面白さではイマイチだが。

この作品の場合は小説の中の話と外の話が出てくるので、「作者が被害者」という設定にカテゴライズされそうだ。

さらに「作者が○○を殺す」という要素もあるけどこれはあまり書けない。

古典ミステリのオマージュという要素もあり、ミステリの薀蓄も楽しい。

『これまでわたしが読んできた探偵たちに、もしも共通点が存在するとしたら、それは本質的な孤独だろう。

容疑者たちはお互いを知っている。それぞれ家族だったり、友人どうしだったりする間柄なのだ。しかし、探偵は決まってよそものである。必要となれば容疑者たちに質問もするけれど、けっして誰とも個人的な関係を結ぶことはない。

探偵は容疑者たちを信用しないし、そのお返しに、容疑者たちは探偵を恐れる。両者の関係は偽りの上に築かれたものであり、最終的に、どこにも行きつくことはないのだ。

殺人者の正体が暴かれてしまえば、探偵はその場を去り、二度と姿を現すことはない。実のところ、誰もがほっとしながら探偵を見送ることになる。』

ミステリに興味がない人には、探偵が孤独であろうとなかろうとどうでもいいようなことだが、こういう文章ににんまりしたり、密室と聞くと、目の色がかわるミステリファンというのはヘンな生き物だと思う。

読書生活

  • 2019.02.02 Saturday
  • 06:34

最近読んだ本
・流転の海/宮本輝               A
・地の星 流転の海 第2部/宮本 輝      A 
・血脈の火流転の海 第3部/宮本 輝      A
・天の夜曲 流転の海 第4部/宮本 輝     A
・凶犬の眼/柚月裕子              B
・国宝(青春篇)/吉田 修一          B
・国宝(花道篇)/吉田 修一          B
・噂/荻原 浩                 B
・下町ロケット(ヤタガラス)/池井戸 潤    B
・フロスト始末(上)R・D・ウィングフィールド B
・フロスト始末(下)R・D・ウィングフィールド C
・NHKガッテン!コレステロール本当の健康新常識<食べてちゃっかり改善>最新対策ワザ


「流転の海」は1984年にスタートし、9部が昨年の10月に出版され完結した。この本は、昔、2部まで読んで、とても面白かったが、3巻目が出たのはそれから4年後で、もう登場人物はあらかた忘れてしまってた。

完結したら読み直すことにしようと待つこと25年。ようやく手にすることができた。危うく完結する前に死ぬところだった。危ない、危ない。

松坂熊吾という実業家と家族の物語で、登場人物がリアルで魅力的、また、戦後の混乱の時代のディテイル書き込みがすごい。

週一のペースでこの本を読んで、他の本も読んでいるので、活字の世界に溺れている今日このごろだ。

「凶犬の眼/柚月裕子」はマイブームの柚月裕子の新作。前作の「孤狼の血」の続編になる。血湧き肉躍るヤクザの世界。映画化も決まってるようで、東映やくざ映画の新しいシリーズになりそうだ。

「国宝(青春篇)/吉田 修一」「国宝(花道篇)/吉田 修一」は朝日新聞に連載された新聞小説。歌舞伎役者の半生を講談調に語っていく。同じ大河小説でも「流転の海」とタッチが違って面白い。歌舞伎界のバックステージものとして楽しく読める。

2018年を振り返って<本>

  • 2018.12.30 Sunday
  • 11:32

今年のベストテンを考えてみる。まず本。

読んだ数67冊。昨年は22冊なので退職して3倍になった。

退職前に、先に退職した友達が、「退職して読書三昧と思っちょるんやったら、そんなもんすぐ飽きるんで。」
と言うので、「そんなものか」と少し不安になったが、なーに、ちっとも飽きない。

伊坂幸太郎とか宮部みゆきといった有名どころもあまり読んでないのでキチンと読みたい。
時間があるんだから司馬遼太郎とか吉川英治なんて長編にも手を出したい。
クリスティとかクィーンで未読のものもあの世に行くには未練が残る。

歳とると本が読めなくなると言う。目が薄くなってきついというのと集中力が持続しない。
人によって違うのだろうが、ワタシは白内障の手術をしていて今でもすこし視力が弱い。70歳くらいが一つの目処かと思うと、あせって読んでおかなくてはと心は千々に乱れるばかり。

仝貧気侶譟人月裕子
盤上の向日葵/柚月裕子
アキラとあきら/池井戸潤
いがみの孤城/辻村深月
イ椶の伯父さん:単行本未収録エッセイ集/伊丹十三
時代劇は死なず!:京都太秦の「職人」たち 完全版 /春日太一
Гれいなシワの作り方:淑女の思春期病/村田沙耶香
┐らおらでひとりいぐも/若竹千佐
三谷幸喜のありふれた生活(おいしい時間)/三谷幸喜
むかつく二人/三谷幸喜 清水ミチコ

最近読んだ本

  • 2018.12.01 Saturday
  • 07:11

・時代劇は死なず!:京都太秦の「職人」たち 完全版 /春日 太一 ★★★★★
・バースデイ・ガール/村上 春樹 ★★★★
・未来/湊 かなえ ★★★☆


◆年末進行その1。早川書房主催の「ミステリが読みたい! 2019年版」が発表になってた。
残念ながらと言うかいつも通り既読はなし。「読みたい本のリスト」にはあげて、1位くらいのものは読みたいものだ。

ミステリが読みたい! 2019年版/ランキング結果発表 http://www.hayakawa-online.co.jp/new/2018-11-30-140540.html

◆「時代劇は死なず!:京都太秦の「職人」たち 完全版 /春日 太一」は興奮の一冊。

昔は映画全盛で中心は時代劇だった。それが映画が衰退、時代劇もメインステージから降ろされていきテレビに活躍の場を移す。栄枯盛衰を膨大な資料とインタビューと愛情と分析力でまとめている。

時代劇は全部東映が作っているとばかり思っていたレベルなので新鮮な内容だった。

「銭形平次」「座頭市」「必殺シリーズ」「木枯し紋次郎」あたりを興味深く見ていた人には面白いのではないか。本編よりも撮影の裏話のほうが面白い。

「座頭市」「必殺シリーズ」あたりの映像美がワタシは好きだったが、その裏では徹底したこだわりと職人芸があった。

例えば、石畳は普通は軽いプラスチックのものを敷いていたが、雨が石畳にあたって跳ねるシーンを撮るのにそれでは物足りないと本物の石畳を持ってこらせる。

そんなものないとなると、どこからも剥がして持ってきて、撮影して返すなんてことをしていた。

著者の春日太一さんは、これを書いた時にはまだ30歳台。すごい情熱で昔のものを活字にしている。今でも週刊誌で俳優のインタビューなど担当している。この人の本は全部読みたい。

◆「バースデイ・ガール/村上春樹」は、今どき村上春樹の新刊?と思ったら、誕生日にまつわるアンソロジーを作ろうとして、量が足りないと書いた短編をイラストをつけて一冊の本にしたもの。新刊ではある。

村上春樹の比喩が大好きだ。例えばこんなもの。
『雰囲気はいかにもひやりとして硬く、夜の海に浮かべておいたら、船がぶつかって沈んでしまいそうだ。』
『年老いていく独身男につきもののある種の匂いが、彼のまわりにひっそりと漂っていた。咳止めドロップと新聞紙をしばらく一緒に引き出しに入れておいたような匂いだ。』

◆「未来/湊 かなえ」は新刊。
最近、いじめがテーマのものばかり読んでいるので、またかと思う。今回は生理を始末した汚物を教壇の上に置かれてしまう。ポーチを隠されて、汚物をポケットに入れていたら臭くなって、体臭恐怖で不登校となる。よく考えるものだ。

近親相姦に、売春に、AV出演の強制、放火、DVとイヤミスの女王とは言え、これだけ人間の悪意を羅列して、つらい話のほうに引っ張り込まれるので読むのがしんどくなった。

最近読んだ本

  • 2018.11.12 Monday
  • 15:28

・おらおらでひとりいぐも/若竹 千佐    ★★★★☆
・かがみの孤城/辻村 深月         ★★★★☆
・かみつく二人/三谷幸喜 清水ミチコ    ★★★★
・ベスト本格ミステリ 2018/探偵小説研究会 ★★★☆
・大人の汁めしかけめし/市瀬悦子
・windows10は初期設定で使うな!日経BPパ ソコンベストムック

◆「おらおらでひとりいぐも/若竹 千佐」は第158回芥川賞受賞作。作者が63歳ということで話題になった。

先入観として老人向け作家講座でお勉強して、上品で繊細な文章を想像していたら全然違った。文章の書き方なんて無視して、太字でグイグイと書き込んでいく自由奔放でそれでいて繊細な文章に圧倒される。だいたい東北弁で書くなんてのが作家講座の先生がいたら反対するところでしょう。

内容は63歳でないと書けないものだし、読み手も同年代のほうが理解が深いのではないかと思う。

これは賞をとってもおかしくない。

『自分のような人間、容易に人と打ち解けられず孤立した人間が、それでも何とか前を向いていられるのは、自分の心を友とする、心の発見があるからである。桃子さんはそう思っている。自分はひとりだけれどひとりではない、大勢の人間が自分の中に同居していて、さまざまに考えているのだという夢想は桃子さんを気強くもさせた。』

『愛はくせもの 愛どいうやつは自己放棄を促す おまげにそれを美徳と教え込む 誰に 女に 
貴方好みの女になりたい
着てはもらえぬセーターを寒さこらえて編んでます
何とかならないのが、この歌詞。この自己卑下。奴隷根性

でいじなのは愛よりも自由だ、自立だ。いいかげん愛にひざまずくのは止めねばわがねんだ。愛を美化したらわがのねだ。すぐにからめとられる
一に自由。三、四がなくて五に愛だ。それぐらいのもんだ』

『体が引きちぎられるような悲しみがあるのだということを知らなかった。それでも悲しみと言い、悲しみを知っていると当たり前のように思っていたのだ。分かっていると思っていたことは頭で考えた紙のように薄っぺらな理解だった。もう今までの自分では信用できない。おらの思っても見ながった世界があるそごさ、行ってみって。おら。おら、いぐも。おらおらで、ひとりでいぐも。』

◆「かがみの孤城/辻村 深月」は、今年の本屋大賞の作品。ミーハーで賞をとった作品ばかり読んでいるようだが、その通りなのだ。ちなみにこの本は、「ダ・ヴィンチブックオブザイヤ-2017 1位」「週刊文春ミステリーベスト10 2017 10位」「このミス2017 8位」「北上次郎2017ベスト2位」でもある。止めに本屋大賞。そう言われると読みたくなるでしょう。

ワタシの贔屓の「盤上の向日葵/柚月 裕子」を2位に押しやっての大賞受賞ということで、どんだけのもんか、つまらんかったら許さんぞ、と鼻息荒く読み始めたけど、まぁやむを得ないとナットクした。

鏡をすり抜けて不登校児童が集う城が舞台。ファンタジーであり青春小説であり、SFであり、最後丁寧に伏線を回収するのでミステリでもある。辻村深月すごし。

◆「かみつく二人/三谷幸喜 清水ミチコ」は2006年のFM放送を文字にしたもので、何冊か出ていて、これが面白くてしょうがない。

お互いを小馬鹿にしている感じがたまらないんですね。

三谷「僕、よくこぼすんですよ。」
清水「よくこぼすね。」
三谷「なんでだろう?やっばり、母性本能をくすぐるタイプだからかな。」
清水「くすぐられるというよりは、殴りたくなるタイプですけど。」

「嫌われる勇気:自己啓発の源流「アドラー」の教え」

  • 2018.11.11 Sunday
  • 04:48

少し前に読んだ「嫌われる勇気:自己啓発の源流「アドラー」の教え/岸見 一郎」を少しまとめてみた。
アドラー心理学というけど、人生の生き方に関する啓発の本みたいだ。

アドラーの心理学ではいくつかのファクターがあって、なるほどと思うもの、思うけど実行は困難なもの、理解できないものと分かれる。

◆基本にあるのは人間の思考は過去の「原因」ではなく、「目的」に沿ったものだと捉える。
『怒る原因があって怒るんじゃなくて、大声を出すという目的をかなえるために怒りの感情を作り上げる。相手を屈服させる手段として怒りという感情を捏造する。』
『今のあなたが不幸なのは自らの手で「不幸であること」を選んだからなのです。』
『短所ばかりが目についてしまうのは、あなたが「自分を好きにならないでおこう」と、決心しているからです』。
『問題は能力ではなく、勇気なのだ』

※幸福になるためには例えば勉強しないといけないが、それは面倒なので不幸でもいいや、自分を好きにならなくてもいいという道を選択している。これがアドラー心理学の入口でもって一番飲み込みにくい。

◆劣等感について
『健全な劣等感とは、他者との比較のなかで生まれるのではなく、「理想の自分」との比較から生まれるものです』
『大切なのはなにが与えられているかではなく、与えられたものをどう使うかである。』
『もしも自慢する人がいるとすれば、それは劣等感を感じているからにすぎない。』
※これはそのとおりだと思うのだけど、実践できるかと言うとなかなか難しいところがある。

◆自分に正直に生きる。
『われわれは「他者の期待を満たすために生きているのではない」。他者からの評価ばかりを気にしていると、最終的には他者の人生を生きることになります。』
『他者の期待を満たすように生きること、そして自分の人生を他人任せにすること。これは、自分に嘘をつき、周囲の人々に対しても嘘をつき続ける生き方なのです。』
※そのためには嫌われてもいとわないことだ ということで、これが本のタイトルになるほど重要なこと。嫌われる勇気を持て!自由と自立を獲得にするにはこれしかない。分かるのだけどなかなか難しそうなことではある。特に日本人は。

◆「課題の分離」「他者の課題を切り捨てよ」
※これもアドラー心理学の基本。これは誰の課題かを考えて、他者の課題と判断したら切り捨てる。
子どもが勉強しないからといって、それは子どもの課題であると考える。子どもに対して支援は必要でも「勉強しなさい」と言うことはおかしいということになる。これを実行すると人生はシンプルになる。

◆人生に目的を持たない。今を生きる。
『人生とは、いまこの瞬間をくるくるとダンスするように生きる、連続する刹那なのです。踊っているのですから、その場にとどまることはありません。しかし、目的地は存在しないのです。』
『人生全体にうすぼんやりとした光を当てているからこそ、過去や未来が見えてしまう。しかし、もしも「いま、ここ」に強烈なスポットライトを当てていたら、過去も未来も見えなくなるでしょう。』
『「いま、ここ」にスポットライトを当てるというのは、いまできることを真剣かつ丁寧にやっていくことです。』
※人生は目的に向かって生きるものとすると、目的を果たすまでは仮の自分でしかなく目的を果たせないと人生の意味を失う。人に勝とうとすると負けた時、悪い意味で特別な存在になろうとする安直な優越性を追求したりする。今を真剣かつ丁寧にという言葉は同じように思っていることだ。

その上で、幸福感とは「他者への貢献」にあるとしている。

根底にあるのは、自立と信念と自分に対する厳しさと理性的な生き方ですね。

アドラーの考え方に共鳴したとしても自分を変えるには生きてきた年齢の半分はかかるとあって、ワタシの場合、30数年かかることになる。もう間に合いませんね。
とはいえ教えられることも多く、他のアドラー本を読んで少しでも人生のヒントを得たいですね。

最近読んだ本

  • 2018.10.29 Monday
  • 20:59

最近読んだ本

・嫌われる勇気:自己啓発の源流「アドラー」の教え/岸見一郎 ★★★★★
・ぼくの伯父さん:単行本未収録エッセイ集/伊丹十三     ★★★★★
・きれいなシワの作り方:淑女の思春期病/村田沙耶香     ★★★★☆
・むかつく二人/三谷幸喜 清水ミチコ            ★★★★☆
・そこでだ、若旦那!/立川談四楼               ★★★★

 

どの本も面白かったなぁ。

 

「嫌われる勇気:自己啓発の源流「アドラー」の教え/岸見一郎」はアドラー心理学の入門本。初めて読む。心理学というより生き方の本ですね。疑問が出てくる内容ということで対話の形にしているのがよかった。
しっくりこないところもあるけど基本的には納得した。アドラー本を続けて読んでみようと思う。気が向いたら別に書いてみます。

 

伊丹十三には夢中だった時期がある。まずエッセイに夢中になり、それから映画、雑誌、講演も聞きに行った。一番の魅力はとにかく面白がるという姿勢ですかね。ずいぶん影響を受けてると思う。

「ぼくの伯父さん:単行本未収録エッセイ集/伊丹十三」は彼に触れる最後の作品となった。読み始めるとすぐに伊丹十三が立ち上がってきて、あー、こんなことを書く人は彼亡き後誰もいなかったと思いながら読み進めた。年譜を見ると64歳で亡くなっている。ワタシより年下なのか。

 

「きれいなシワの作り方:淑女の思春期病/村田沙耶香」は「コンビニ人間」で芥川賞をとった著者のエッセイ。
執筆の時は36歳くらい。その年代ならではのあるあるネタで、若いとは言えなくなった年代の真実と自虐と苛立ちとユーモアが面白い。村田沙耶香のエッセイは今後も全部読まねば。あっ、小説も読むつもりだ。

【本】看る力 アガワ流介護入門/阿川佐和子 大塚宣夫

  • 2018.10.16 Tuesday
  • 06:57

「看る力 アガワ流介護入門/阿川佐和子 大塚宣夫」は、大塚宣夫さんという老人向けの病院などを経営している人との対談集。対談はお互いを褒め合うなれあいになりがちだが−これもそういう面がなくはないが−、いろんなところで付箋が立って参考になった。
その付箋箇所をちょっと抜粋する。

◆『年を取られた方がよく、「お酒も大して飲まなくなったし、外食もしなくなったし、観劇とか旅行にも行かなくなったから、金のかかることは大してないよ」と言われますね。でも、老後に体が動かなくなったときこそ、お金がかかるんだってことを自覚しておいたほうがいい。』

◆『問題は、七十五歳からですよ。七十五歳を過ぎたら、じっとしているだけで筋肉は細り、関節は固くなり、バランスを取る能力もガタッと落ちていく。

自分の体に「疲れてるか?」「体調はどうだ?」と聞いてごらんなさい。「疲れている、体調もイマイチだ。ちょっと休ませてくれ」と言う。そこで「そうか」と体の声を聞いて一日休ませてやるとしましょう。二日目に「もう回復したかな」と体に聞くと、「まだ疲れが残っている。もう少し休ませて欲しい」というので従ったとする。ところが三日目になるともう体力が落ちていて、動く気力もなくなってるんですよ。

若い頃は体を休ませ、体調を良く保つことで気力充実といった感じでしたが、七十五歳を過ぎたら、体のいうこと聞いて楽させたらもう終わり。体が何と言おうと、気力に体力を引っ張らせることこそが大切ですよ。予定があるならとにかく出かけましょう。そうすれば、まだ体のほうはついてきますから。』

◆『認知症が始まったからといって、急激に身の回りのことを周囲が手助けしすぎると、さらに症状は進む。一人でまがりなににもできるうちは、そのほうがお互いにいい。

 お風呂に毎日入らなくたって、ご飯も一日三食食べなくたって、部屋が汚くたって、夜寝なくて朝起きれなくたっていいんです。そんなの、生きることにおいてなんの障害にもならない』

◆『認知症の方は結局、自分の頭の中に残っている記憶と照合しながら、いま起きてることに対して最適の行動をとろうとしていますから、本人としては、自分で考えたうえでの行動や言葉なんです。だから、いちいち家族や子どもから叱責される理由がわからない』

◆『遠藤周作さんから生前、こんな話を聞きました。入院しているダンナさんがだんだんと弱ってきて記憶が曖昧になって、最後まで覚えている言葉は、奥さんかお嬢さんの名前。ところが、反対に奥さんが弱って記憶が薄らいでいった場合、最初に忘れるのが、亭主の名前。』

◆『車を運転しながらラジオを聴いていたら、「老人には三種類ある」って話をしていたんですね。1つめは、「振り返ってみると、俺の人生ろくなことはなかった。あれもダメだった、これもできなかった」と後悔して後悔して、自分を責め立てて不機嫌っていう人。次は「俺がこんな人生だったのはあいつのせいだ、こいつのせいだ」と、他人に対する恨みつらみで不機嫌な人。最後は、「今からだってこんなに楽しみがある」と、過去のことはさておき今後を考えて不機嫌じゃない人』

 

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